『アン・ソンギ――韓国「国民俳優」の肖像』村山 俊夫著

間違いなく、日本語で読めるアン・ソンギについて最も詳しい資料であって、また韓国映画の歴史の重要な部分も追いかけられる。なかなか読み応えもある。ドキュメント的書籍読み物としては筆の力に若干今一な点はあるけどまぁそんなに気にするところでもないだろう。
大量の当時の資料も引用しつつで、評伝系として一定の信頼性がある。といっても、直接は국민배우 안성기님 팬카페 | Daum 카페に掲載されている資料を基にしているようだ。自力で図書館周り等をしていたりしたのか、あまりそういう様子はうかがえない。といっても、読んでいる限り不自然な点といったものは特別にないので資料として一定の信頼性はあると言っていいとは思う。
しかしながら、評伝系を真面目に調査執筆していると、「書いてあることが資料毎に食い違う」というのはよくある話で、本書にはそれが表に出て来ていない。敢えて削ったのか何なのかわからないが、でもまぁ書籍に載せなかった削った「執筆者としては入れたかった話」の一つや二つはあるだろうからそういうのはブログか何かで是非読んで見たいとして、一番気になったのは「過去について調査した事実関係等について、執筆調査時点で関係者に取材して確認しているのか」といった点、あまりそういう形跡を感じないのだが。現役の芸能人の話なので、未公開私信や日記を入手して裏付けとかいうわけにはいかないかもしれないが、高望みする読者の視点ではより正確さ・深さを求める上で気になる点は山ほどある。
…とか書いたからといって別に本書を悪い本だという理由はなくって、「絶対買い」。それにつきる。