『ハングルの誕生 音から文字を創る (平凡社新書 523)』野間 秀樹著

ハングルに関する日本語の解説は、大抵は言語入門書や文化入門書で初めの部分がちらっと触れられているだけで、構造や変遷について言語学の立場から深く書いたものはあまりない。新書みたいなものではほぼゼロ、だからこそ新書でそれをやるんだという野間先生。本当に真摯な方です。入門者が読んでも面白くスリリング。また、言語学を噛っている他の言語の学習者にも面白く。とはいえ、やはり真骨頂は言語学に裏打ちされたハングルの特徴と歴史なので、入門書でありながら深く学んでから本書に戻っても再発見がきっとある。是非手元において読み返したい一冊。
とはいえ、確かにハングル贔屓が出まくって、違和感を覚える読者もいるかもしれないが、肯定的に読む方が多いだろう。
amazonの書評を見ると、読解力もなく朝鮮半島バッシングのレビューを書けば、組織票で「参考になる」の集中砲火、そうでないのは「参考にならない」の集中評価でほとんどレビューの体をなしていないのが本書にも進出しているが、「本書に描かれているのは私の知っているハングルではない」などと無知をさらけ出して恥をさらして罵倒している連中の意見は無視すればよい。まぁ、実際の所深い話題が多岐に渡って、いい加減に読むと若干流れを理解しづらい点もあるかもしれないが。
まともに言語学を学んだ立場からの批判は是非読んでみたいものと思う。著者曰く、確かにハングルの庶民への本格的普及は19世紀末以降だし、公式文書は漢文だったが「ハングルはさげずまれてほとんど使われていなかった」等という俗説は「誤り」だと断言する。実際証拠資料は残っているのだからそんな俗説は早々に消滅してほしいものである。形態音韻論、エリクチュールとゲシュタルト、漢字の世界からハングルへ、各地の文字文化の相互影響、中国、日本との関係、その他興味深いテーマが山ほどある。必読の一冊。
褒めてれば今週の本棚:養老孟司・評 『ハングルの誕生』=野間秀樹・著 - 毎日jp(毎日新聞)が本書の本質を突いているかというと、そうだとも言いかねるのはちと残念。「読みたくなる書評」という意味では役に立っているとは思うのだけれども。