『韓国映画史 開化期から開花期まで』キム・ミヒョン編著、根本理恵訳

現時点で韓国映画の歴史(黎明からゼロ年代まで)まで書かれた本の中で最重要。この前提なく韓国映画やら韓流やらについて語るのは、今後はもうなしにしようね、と。
といっても、本書一冊読めば誰でも全貌がわかるというとそういうわけではない(作品を見ておかないとわかりづらい点は別として)、本書だけ読めば他はいらないというわけでにはいかない。参考データ的なものがほぼ掲載されていないから。韓国映画の市場推移や主要人物プロフィールのようなものがない。幾つか出ている既存の書籍やWebサイトと併用参照するのが良い。といってもそれ自体は本書の欠点というわけではない。
ただ、望むらくは多人数に登る執筆者のプロフィールがもっと詳しく載っていてもよいのではないかと。いつの世代のどういう経歴の人が書いたのかというのもこういう資料を読む参考にはなるのだから。
本書について気になる点といえば、幾つか当時の評論界の動き等も紹介しつつ映画の位置づけなどを語ってはいるのだが、いかんせん、「書籍も検閲があった」という意味では「検閲に載らない市民や評論家の意見」みたいなものがあまり見えてこないのは残念だ。映画人の当時いえなかった本音みたいなものも、そうは多くない。これはないものねだりなのだろうか。
本書そのものの評価は私のレベルではベタ褒めで十分なので関連話題に。
韓国のアニメ映画黎明期について名古屋で特集上映した立場からすると、「当時のアニメ映画のストーリーや登場人物の個性がなぜああだったのか。なぜあのジャンルの映画が作られたのか」という点において、本書で該当する時代の実写映画の事情と政治・映画政策との関係を読むと、さらに理解が深まるのではないかと思う点もある。古典の映画化やイデオロギーの映画への要求といった点である。本書自体はアニメについてはほぼ扱ってないのだが、それでもアニメの視点からもなるほどと思う点がある。
また、本書はやはり(レイテリングが日本よりずっと厳しい)韓国映画の歴史だけに、全貌を語ると成人のみ鑑賞可(といっても別に日本でいうところの成人映画は除いてもかまわない。除いても成人のみ鑑賞可は多かったのだ)の作品ベースでみているので、子供が見られる映画や子供映画の視点での映画史というのも誰か書いてもいいのではなかろうか。
あと、実験映画の視点での歴史も、また誰かにまとめてほしいものである。